シチュエーションコメディーとは何か。日本の演劇関係者で理解している人はほとんどいない。小劇場に関していえば皆無といってもさしつかえありません。コメディを上演する際に意味もわからず”シチュエーションコメディー”とつけてしまってる劇団・ユニット・公演ばかり。自称演劇評論家に関して言えば、無知。
※2002年から2003年にかけて三谷幸喜さんによる日本初のシットコム「HR」が放映されました。また、2006年からてにどうによるインターネット日本初のシットコム「tenido.com」が配信されました。 アメリカのドラマでは「フルハウス」「フレンズ」「アルフ」「奥さまは魔女」「ウィル&グレイス」「サブリナ」「ダーマ&グレッグ」「スピン・シティ」「アーノルド坊やは人気者」「ルーシー・ショー」「アイ・ラブ・ルーシー」「Seinfeld」「Frasier」「Three's Company」「Mad About You」「The Golden Girls」「Married with Children」「All in the family」「Cheers」「Fresh Prince」「The Cosby Show」「The Jeffersons」「Gilligan's Island」etc。本当にその数は、絶句するほど。アメリカでドラマといえばシットコム。常にどこかのチャンネルで放送されています。シットコム専用のチャンネルがあるぐらいです。 シットコムとはシチュエーションコメディーの略で、笑い声が入っている30分のテレビ番組のことを意味しています。シットコムの歴史はルシル・ボール主演による「アイ・ラブ・ルーシー」から始まりました。お客さんを入れての公開形式に限らず、ロケ形式のものもあれば、「シンプソンズ」や「サウスパーク」などのアニメもシットコムと呼ばれています。また、20世紀の最も優れた劇作家の一人であるニール・サイ モンはシットコムの偉大な作家とされ、彼の代表作「おかしな二人」はシットコムの優れた例としてとりあげられています。 基本的に、いつもだいたい決まった場所で物語が展開。いつものメンバーがあらゆる問題に直面するがとりあえず一話で解決。そして、目指すべきゴールがない物語であるということ。目指すべきゴールがないというのは、例えば、もてない男性が101回目のプロポーズをして素敵な女性と見事にゴールインしたら物語は終わり、ではなく、人気シリーズであれば熱々の新婚生活から夫婦の倦怠期をむかえるところまで物語はすすむかもしれません。それでも、基本的にはいつものメンバーの関係性に大きな変化はうまれません。 では舞台はどうかというと・・・基本的に「場面」が展開しません(例外も)。場面とは、例えば舞台がお城だとしたら、最後までお城です。途中幕が変わって、草原の場面になったり、村の場面になったりしません。三幕ものをはじめ、時間の移動こそあっても基本的に場面の展開はありません。 舞台セットが変わらずに、勝手に場所が変わるコメディはシチュエーションコメディーではありません。シチュエーションコメディーとは、コメディの上にわざわざシチュエーション(場面)という言葉がついているぐらいですから、シチュエーションがないがしろにされてはシチュエーションコメディーの範疇からはずれてしまいます。空の舞台という設定じゃなければ舞台セットが必要となり、そこには当然リアリティが求められます。 シチュエーションコメディーを成立させるためには9つ(厳密には11)の定義があり、53(細かく分けると100以上)のパターンがあります。シチュエーションコメディーでなくてもアメリカのコメディにはこのパターンが多くみられます。このパターンは、アメリカのコメディのリズムだと言えるかもしれません。 シチュエーションコメディーはさらにコメディ(喜劇)とファルス(笑劇)というジャンルに大きく分けることができます。 コメディがその人物がずっと抱えている葛藤を重点的に描くのに対し、ファルスは事件に巻き込まれることによってその人物が次々に直面する葛藤を徹底的に描くといった感じです。事件の数だけ葛藤のあるファルスと比べ、コメディは一人の人物がもともと抱えている葛藤の数に限りがありますので、笑いの量としては事件の数を増やせば笑いが増えるファルスのほうに分があるといえます。しかし人物がずっと抱えている葛藤を描くコメディは、味わい深い笑いになりやすいともいえます。 コメディが得意な作家としては「ニール・サイモン」「永井愛」「水谷龍二」が、ファルスが得意な作家としては「レイ・クーニー」「三谷幸喜」が有名です。 笑いというジャンルに漫才や落語やコントという”かたち”があるように、コメディーというジャンルにシチュエーションコメディーという”かたち”があるに過ぎません。しかし、その”かたち”の中で切磋琢磨しているアメリカのシチュエーションコメディーは、サッカーでいえばブラジルのチームのように、とてつもないレベルに到達しています。 一たびコメディドラマやコメディ映画をつくることになれば、シチュエーションコメディーは避けては通れないジャンルであります。なぜなら、シチュエーションコメディーの長い歴史の中に、comedyの全てが詰まっているからです。 工藤剛士 参考資料 |